発電機の試験 ~抵抗の組み合わせパターン・物理屋のひとりごとPart2~
こんにちは。先月に引き続き、今月もブログはK’zが担当いたします。福岡は9月でもまだまだ猛暑の日々が続いています。アニメですが、来月から「薬屋のひとりごと」第3期が始まります、楽しみです。最近は「ふつつかな悪女」にハマってますが。先月は発電機の試験について書かせて頂きました。そして今回は「抵抗の組み合わせ」で抵抗値を決めるのが大変だという話の続きになります。
〇イントロ ~私事紹介~
私は福岡が地元で、明和製作所から一番近い私立高校、福岡舞鶴高等学校の生徒でした(明和製作所を知ったのは5年前ですが)。今でも通勤中に生徒を見かけると懐かしく思います。私の時代に比べて、雰囲気が全然変わっています…進学校に(今年も東大合格者が。。)
私は特別進学クラスだったのですが、中学生の頃から進路指導時に「美容師になる」と宣言していました。美容師の叔父の影響と「カリスマ美容師ブーム」の影響が大きかったです。今思えば叔父の助言通り「自分には向いていなかった」と思います。
前回、苦手だったことを克服し、今や~と書きましたが。実は、福岡舞鶴時代の恩師の言葉の影響を受けています。全日本剣道選手権大会を優勝した元王者、國友錬太朗選手(高校の後輩になります)のお父様で、今は福岡舞鶴高校の校長先生を務めていらっしゃる國友秀三先生のお言葉でした。うろ覚えですが「苦手だったものを逆に敢えてとことん打ち込んで極めてみる」といった内容だったと思います。それは確か剣道だった様な気がします(向いてないと思い込み、中々上達しなかったが本気出してみた…と)。
当時は体育教師で、普段は語らないのですが、たった一度だけ生徒に真剣にメッセージを伝えた事が有り、それが物凄く印象に残っていました。苦手な事に挑戦するたびに今でも思い出します。
本題に入ります。先ずは、おさらいです。
発電機試験の流れは以下の3ステップです。
1.無負荷で回転数を変えての誘起電圧を測定する。
2.抵抗(負荷)を変更しながら特性試験を行う。
3.特性試験の結果から温度上昇試験を実施する。
明和製作所では、お客様の用途やご要望に合わせて、最適な仕様へカスタマイズした発電機をご提案しています。
〇特性試験で頭を悩ませる「抵抗値の選定」
試験時に毎回頭を悩ませるのが、特性試験時の「抵抗値の選定」です。
発電機の負荷試験では、確認したい電圧・電流・出力に応じて負荷抵抗値を決めます。実際の発電機では、電流値が増加すると端子電圧も変化します。そのため、計算だけでなく実測した負荷特性を確認しながら試験条件(抵抗値など)を設定します。
また温度試験では発電機を長時間回す必要があります。長時間回すことで熱を持ち、発電性能が落ちるため、その状態でも仕様を満たすように設計できているかを確認する必要があります。
その際、負荷(抵抗)をつないで温度試験を行いますが、抵抗の許容量を十分に大きく取る必要があります。抵抗の容量が小さいと、抵抗が高温になり煙が出てしまいます。

・1Ωの抵抗 10本
・10Ωの抵抗 5本
・22Ωの抵抗 5本
「この中から適切な本数を抜き取り組み合わせて、合成抵抗 約0.6Ωを作成せよ。(小数第二位で切り上げで)」
さすがにテスト問題では無いので、実際は「ただし」が追加されるわけですが。
「(ただし)各抵抗にかかる負荷電力を分散し、1本当たりの発熱を抑える様に組め」と。
・抵抗1本当たりにかかる電力が一番低くなるように抵抗を組む。
・発電機の整流後の出力は4kWなので、
1Ωの抵抗1本の電力は300W未満に。
10Ω、22Ωの抵抗1本の電力は750W未満に。
1Ωの抵抗1本の許容量は1kWで、10Ωと22Ωの抵抗1本の許容量は2.5kWです。
温度試験で長時間発電する際は抵抗が高温になるため、(弊社の試験では)余裕を持たせるために許容量を3割とみなして計算します。(データシートより、許容量50%でも長時間で250℃まで上昇)
弊社の試験では、抵抗器の温度上昇を抑えるため、扇風機やスポットクーラーで強制冷却しながら試験を行っています。
中学2年生で習う単純なオームの法則ではあるものの、実際に組み合わせを考え始めると意外と奥が深く、私は紙と鉛筆を片手に何度も計算を繰り返していました。直列接続の抵抗は足し算で簡単ですが、並列接続の抵抗値は逆数で計算するという性質上、頭が混乱します。
大学入試ではさらにコイルやコンデンサーが絡んで、もっと大変なことになりますが……。
実際に試験で作った負荷(抵抗)はこちらです。

試験装置は(他の人も使う為)順番待ちがあり、かつ納期厳守のため、試験中に考えている時間は有りません。事前に万全の準備をしてから試験に臨みます。温度試験は大抵3~4時間掛かります。
実際には10Ω → 2.0Ω → 1.0Ω → 0.6Ω → 0.46Ωと順番に抵抗をつなぎ変えて試験する必要があり、どう繋ぎ変えるかを事前に検討しておく必要があります。(前出の発電機の特性グラフのポイントを作成するため)
解答:合成抵抗0.6Ωの作り方
実際に0.6Ωの合成抵抗をどのように作ったのかをご紹介します。
ポイントは、「先に容量の大きい抵抗を使う」ことと、「並列つなぎを多用する」ことです。
その後「残りの1Ωの抵抗10本を組込んで抵抗値を合わせこむ」。大きな抵抗は並列につながないと合成抵抗が小さくならないからです。
22Ωの抵抗4本を並列に、10Ωの抵抗5本も並列につなぎます。(22Ωは5本では無く4本が都合良かったので)
・22Ω 4並列の合成抵抗 :5.5Ω
・10Ω 5並列の合成抵抗 :2.0Ω
5.5Ωと、2.0Ω の2つの抵抗同士を更に並列につなぐと、


となり、計9本を使うことで合成抵抗:R合が 1.467Ω ≒ 約1.47Ωになります。

残り1Ωの抵抗10本から組み込むことで、最終的に目的とする約0.6Ωの合成抵抗を作ります。
22Ωと10Ωの並列合成抵抗:1.467Ω ≒ 1.47Ωから逆算すると、


1Ωの抵抗だけで作るべき合成抵抗:約1.015Ωになります。
これで、めでたし めでたし……では終わりません!
ここからが本番です。
1Ωの抵抗10本から直列・並列を駆使して1.015Ωを作る必要があります。しかも1本に掛かる負荷電力を最小にしつつ(発電する整流後の出力電力4kWに対し、1本当たり300W未満に)。
皆さんは即答できるでしょうか?
先ほどの10Ωと22Ωの並列抵抗に更に並列でつなぐ。つまり1Ωで作る合成抵抗にも同じ電圧が掛かります。やはりポイントは並列の多用で電流をいかに分散させるかです。
今回の試験では、整流後出力4kW付近を試験点として想定しているため、電力の式を使って計算式は以下になります。(生成AI指摘の整流後の電流が脈流の場合、実効値では?という事は省略します。)

オームの法則 V=R×Iより更に以下の様に変形すると。


この式より、出力:P=4000[W]と、合成抵抗値:R合=0.6 [Ω] より

これより電流値:I ≒ 81.7 [A]

電圧値:V ≒ 49.0 [V]になります。
これらの値より10Ωの合成抵抗、22Ωの合成抵抗、1Ωの合成抵抗に分けて考えると下記の図のようになります。(49=R合1×I1、49=R合2×I2、49=R合3×I3より各分岐した電流値が求まる)

上記の計算より、1Ωの抵抗で作る合成抵抗:R合3(1.015Ω)には
49[V] × 48.3[A] ≒ 2367[W] の電力が掛かります。
つまり1Ωの抵抗1本でR合3≒1Ωとして試験をすると、許容量1kWを遥かに超えた2倍以上の電力負荷がかかり高温になり煙が出ます。そこで1Ωの抵抗を使って並列繋ぎを駆使して1本当たりの負荷電力を分散させます。(面白いですよね、1Ωの抵抗を数本組み合わせて1Ωの抵抗を作るって)
私はExcel上で計算したのですが、10本の1Ωの抵抗を組み合わせて作る合成抵抗:1.015Ωは(結局10本と限られているので)計算上、必ず3並列以上必要で、かつそれを満たす組み合わせは2パターンのみ。(誤差が10%未満という条件のもとで)
結局のところ「抵抗値の誤差が少なく、かつ1本当たりにかかる電力負担が少ない」つなぎ方は1選択で、
「3並列+3並列+3並列」(+は直列接続の意味)
これで誤差1.5%の 合成抵抗 :1.0Ω が作れます。(どうしてもキリの良い1.015Ωは作れないのですが)

ちなみに、もう一つのパターンは「3並列+3並列+4並列」で合成抵抗:0.917Ωですが誤差が10%近くに。
よって最終的な回路全体の合成抵抗値は


合成抵抗 R合: 0.595 ≒ 0.6Ωとなり、0.9%の誤差はあるものの1Ωの抵抗 10本中9本を使うことで、1本当たりの電力負担を下げることができました。
計算は省略しますが、下記図のように電圧がかかり電流が流れるので、抵抗1本当たりにかかる電力は約263[W](定格負荷率26%)となり 目標の300[W]未満となります。
10Ωは1本当たり240[W](定格負荷率10%)、22Ωは1本当たり約110[W](定格負荷率4%)で、こちらも750[W]未満となり目標達成です。(※ 上記計算は1.0Ωでは無く、理論値の1.015Ωで計算しています。)
実際の抵抗値には各抵抗器の許容差や温度による変化があるため、試験時には抵抗計で測定し、また実測した電圧・電流から負荷状態を確認します。

(余談)並列と直列の組み合わせ。どちらが大きい?
ここで余談のもう一問。
「2Ωの抵抗を3並列と1Ωの抵抗を3並列を直列につないだもの」(下左図)
と
「3Ωの抵抗を3並列につないだもの」(下右図)
では、どちらの(回路全体の)合成抵抗が大きいでしょうか?

答えは……どちらも同じで、合成抵抗値は1.0Ωです。

並列3本とも同じ抵抗値であれば流れる電流も等しいため、上図の2つのつなぎ方は等価になります。
先ほど「3並列+3並列+3並列」(+は直列の意味)と書きましたが、実際には1Ωの抵抗3本を直列につないだ3Ωとして「3Ωの抵抗の3並列 」でも同じ結果が得られます。

40年以上前、自分が解けなかった物理の入試問題がまさかの今回の業務内容でした。その後に引きずって次の設問の簡単なモーターの問題でもパニックに。この二つの問題で手間取ってた自分がまさかモーターメーカーに勤めるとは。。。

〇抵抗組み合わせ自動計算用エクセルマクロ作成しました
最初、生成AIを使って算出を試みましたが、トンチンカンな回答ばかりでダメだったのもあります。(私の指示が下手なのもあるのでしょうが)
そこで「~本数の抵抗の中から組合わせて◯◯Ωの合成抵抗を作る」ためのExcelマクロをVBAで作成しました。
最初はExcelに直接手入力で計算していたのですが、苦手なVBAを生成AIに頼んでマクロを組んでもらいました。抵抗の組み合わせ探索・計算をボタンクリックで算出するように自動化しました。
C言語は得意なのですがVBAは本当に苦手で、毎回生成AIに助けられています。紙と鉛筆でのごりごり計算も毎度大変でした。(発電機が変わるたびに抵抗値が変わるので)

実はここで、発電機の試験時に落とし穴にハマってしまったのですが。。。
このVBAマクロの計算結果で、合成抵抗1.015Ω の誤差1.5%である1.0Ωの組み合わせが5件ヒット。
そのうち抵抗本数が多い計9本の「3並列+3並列+3並列」と、計10本の「2並列+4並列+4並列」の組み合わせが候補になりました。
当初は時間に追われ慌てていたせいもあり「使用本数を増やせば 1 本当たりの負担を分散できる」と考え、後者の10 本構成を選択しました。(他の抵抗値を作成するのに組みやすかったのもあります)
「抵抗1本当たりに掛かる負荷電力を減らしたい」 = 「なるだけ多くの本数使う」
と安易に考えてしまいました。
長時間の温度試験でもスポットクーラーで冷やしながら行ったので問題有りませんでした。先述の通り、「最低でも3並列必要」と「上記の抵抗1本当たりの電力計算」をちゃんとすることで正解にたどり着けました。2択の最終判断は皮肉にもAIを使った方が良かったのかもしれません。
ちなみに2並列部分の1本の抵抗の電力が600[W]となり定格負荷率の60%に達し、また目標の300[W]未満を2倍も超えていました。

〇最後の関門:配線図の作成
(本題のつづき)さらに、困難はまだ続きます。
1.22Ωの抵抗4本を並列
2.10Ωの抵抗5本を並列
3.1Ωの抵抗を「3並列+3並列+3並列」
この1,2,3をそれぞれ並列でつなぎ、全部で18本の抵抗を組み合わせて約0.6Ωの合成抵抗を考えました。しかしこれを実際の抵抗器に配線する必要があります。


上図の抵抗器を「はいどうぞ」と渡されて、これを見て瞬時につなげられるでしょうか? 慣れていないと頭がフリーズしてしまいます。(福岡が誇る名門高専出身の技術部の先輩は、脳内で簡単に組み立てられるようですが)
そこで、効率的に作業を進めるために接続図や配線図を改めて作成する必要があります。

こうして(苦手な私は)下準備を整えることで、ようやく(少しでも早く)試験を実施できるようになります。
本当にExcelは便利なもので、計算させたりグラフを描いたり、近似式を出したり比較させたりと、フル活用しています。
モータや発電機の開発では、設計そのものだけでなく、試験方法や計算方法を工夫し、評価作業
を改善していくことも重要です。こうした仕組みを考え、実際の試験へ反映していくことも、技術者としての仕事の面白さの一つだと感じています。並行してどんどん開発業務もしたいのですが中々進まず悶々と…
最後に…
物理(だけは)得意で好きだったのですが、勉強が大の苦手で高校の3年生になるまで一切勉強せず。一番苦手な数学では何度も0点を取ってました。物理の先生の影響で「美容師 → 研究者」を目指すことに。浪人したり大学入り直したりと紆余曲折をし、結局、博士課程(後期)中退まで計10年間も学生してました(一度も留年はしていません)。東京都立大で開催された物理学会に登壇したのですが、その時に高校時代の物理の恩師に再会できたのが良き思い出です。
当然のごとく理化学研究所やKEK(高エネルギー加速器研究機構)の加速器関連の研究者に憧れ目指していましたが、現実は厳しく夢破れました。リアルに「博士が100人いる村」状態に絶望。
そこで13年前ですが、当時の福岡県の小川知事が国際リニアコライダー(ILC:加速器)誘致に尽力されていたのを思い出します。誘致を巡り、「岩手+宮城」 vs 「福岡+佐賀」で競っていたのですが、2013年8月のILC立地評価会議にてILCの国内候補地として北上山地(岩手-宮城)に決まりました。もしこの国際リニアコライダー(ILC)が福岡の背振山地に誘致され完成したら、福岡にUターンしてここの職員になりたい!っと思っていましたが、今に至ります。(「リニアコライダー 福岡」で検索すると沢山記事がでてきます。)
結局このILCの建設は未だ始まっておらず、国も協力的では無いので(兆を超える巨額費用・税金負担)、今後どうなるのかわかりません。
脊振ILCハイスクール!なる解説動画も作成されていて、文化庁メディア芸術祭のエンタメ部門で審査委員会推薦作品に選出されていたそうです(知らなかった)。

前回と今回で、発電機の特性試験を通して、中学校で学ぶオームの法則が実際の製品開発でどのように活用されているかをご紹介しました。高等学校教諭専修免許状(理科)(…研究者になった場合の保険として) を取得した身としては、子どもたちに「学校で習ったことは決して無駄ではなく、(特にエンジニアは)現役でバリバリ活用している人がいる」ということも、この場をお借りして伝えたいとも思いました。(For 未来の技術者へ)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

右図:RHIC加速器は明和から直径1.2kmの中心円に相当(全長21㎞のILCに比べるとスケールが小さく見えますが)

