Dyフリー磁石モータの耐熱評価
Yagiです。いよいよクライマックスを迎えつつあるミラノ・コルティナ冬季オリンピック。連日の熱戦に、寝不足気味という方も多いのではないでしょうか。開催地の一つ、イタリア・ミラノ市内には「福岡ハウス」がオープンしました。日本の自治体としては初めて、五輪期間中に設けられた交流拠点です。博多織や久留米絣の展示、福岡の食やお酒の紹介などを通じて、世界に向けて “FUKUOKA” の魅力を発信しています。
さて、先月のブログでは Dy(ジスプロシウム)フリーネオジム磁石単体の耐熱評価結果 をご紹介しました。【磁石単体に110℃以上の熱を加えると、温度が下がっても磁力が元に戻らない → モータの特性が変化する】という内容でした。
では、単体で減磁する磁石は、モータに組み込んでも同じように減磁するのか?
今回は、同じ磁石をモータに組み込んだ状態で 140℃まで加熱 し、実機評価を行った結果の一部をご紹介します。
実機評価の結果:単体評価とは異なり、顕著な不可逆減磁は発生せず

加熱前後で誘起電圧やモータ特性に大きな変化は見られませんでした。(評価はモータが常温に戻ってから実施)単体評価では減磁兆候が見られた温度領域でも、実機評価では顕著な不可逆減磁は確認されませんでした。
では、なぜ単体と実機で挙動が異なるのか?
単体評価と実機評価の違いは「磁路構造」にある
■ 単体評価(開放磁路):反磁界が強く、減磁しやすい
磁石単体は「開放磁路」状態です。磁束は空気中へ大きく回り込みます。空気は磁束を通しにくいため、磁石内部には強い反磁界が発生します。高温により保磁力(Hcj)が低下している状態では、この反磁界によって 不可逆減磁 が発生しやすくなります。
■ 実機評価(閉磁路):反磁界が小さく、減磁しにくい
一方、モータ内部ではロータ鉄心・ステータ鉄心によって磁路が形成されます。磁束は鉄心内を効率よく循環し、空気中への漏れが大幅に抑えられます。その結果、磁石に作用する反磁界は大きく低減します。反磁界が小さければ、高温によって保磁力(Hcj)が低下していても、不可逆減磁は発生しにくくなります。

この現象を支えているのが磁気設計です
実機において減磁が抑制されている背景には、主に以下ののような設計要素が関係しています。
エアギャップの最適化
エアギャップ(ロータとステータの間にある隙間)が広すぎると、反磁界の影響を強く受けやすくなります。実機では、トルク性能と減磁耐性のバランスを考慮した最適なギャップ長が設定されています。。
鉄心形状・磁気抵抗の設計
鉄心の形状や積層構造によって、磁束が流れるべき経路の磁気抵抗を最小化しています。これにより、意図しない磁束の回り込み(漏れ磁束)を抑え、磁石に対して有害な逆方向の磁界(逆磁界)が印加されるのを防いでいます。
磁石寸法・配置の最適化
磁石の厚みや配向、配置構成は、磁石内部の磁束密度分布に直結します。磁気設計の段階で、過酷な負荷条件下でも減磁リスクを最小限に留める寸法・配置が選定されています。
弊社モータ解析についてもご覧ください。
用語の整理:反磁界・保持力・減磁
反磁界とは
磁石内部に生じる磁化方向と逆向きの磁界です。磁石が磁束を発生すると、その一部は自らを打ち消す方向に作用します。この内部逆磁界の強さは、磁石の形状・磁路構造・エアギャップ長 によって大きく変わります。一般に、開放磁路では強く、閉磁路では弱くなるのが特徴です。
保磁力(Hcj:固有保磁力)とは
磁石が外部からの逆向きの磁界に対してどれだけ耐えられるかを示す指標です。高温になると Hcj は低下し、減磁しやすくなります。
減磁とは
磁石が本来持っている磁力が低下する現象のことです。ただし、減磁には 「可逆」 と 「不可逆」 の2種類があります。
● 可逆減磁
温度上昇により磁力が一時的に低下する現象です。温度が下がれば磁力は元に戻ります。これは材料(ネオジム)固有の温度特性です。
● 不可逆減磁
高温や強い反磁界(逆磁場)が加わることで、磁石内部の磁区構造が不可逆的に変化し、磁力が恒久的に低下する現象です。
今回の評価で焦点となるのは、この 不可逆減磁 です。
まとめ
磁石単体では高温で減磁しやすいものの、モータに組み込むと磁路が閉じるため反磁界が小さくなり、140℃加熱でも顕著な不可逆減磁は発生しませんでした。実機ではエアギャップや鉄心形状、磁石配置などの磁気設計が総合的に働き、減磁リスクを抑えています。ただし、耐熱性は磁石仕様やモータ構造によって異なるため、用途ごとの個別評価が重要です。
補足:すべてのDyフリー磁石が同じ挙動を示すわけではありません
今回の評価結果は、あくまで特定の磁石仕様とモータ構造に基づくものです。Dyフリー磁石といっても、磁石グレードや磁路設計、使用条件によって挙動は大きく変わります。
最後に
昨今、希土類材料の輸出規制や管理強化の影響により、重希土類元素(Dy)を含む磁石の調達環境が不安定化しております。弊社といたしましては、こうした国際的な情勢変化に左右されず、将来にわたり製品を安定供給できる体制を構築するため、Dyを使用しない磁石への切り替え評価を進めています。

