ブラシモータの構造と原理|設計・巻線・進角
yagiです、お久しぶりです。AI制御、ブラシレスモータ、スマートメンテナンス──2025年の産業界は、効率と知能化を軸に急速な進化を遂げています。福岡では次世代モビリティの実証実験が進み、国内では高市政権による「産業再編戦略」が本格的に始動しました。世界ではドジャースがワールドシリーズ連覇を果たし、日本人投手がMVPに輝くなど、技術と人の力が改めて注目を集める月となりました。
こうした“進化の時代”にあっても、すべての現場が最先端技術だけで動いているわけではないのです。 ブラシレスモータが高効率・高精度を武器に活躍の場を広げる一方で、構造の簡素さ、瞬発力、駆動の容易さ、そして保守性──実用性を重視する現場では、今もなおブラシモータが使われ続けています。今回は、そんなブラシモータについてお話しいたします。
弊社のホームページでは「整流子モータ」「DCマグネットモータ」という分類でブラシモータを紹介しています。一方、産業用製品比較メディアの〝メトリー”では [ブラシモーター] [ACモーター] [DCモーター] [ユニバーサルモーター]という名称で各社の製品を分類しています。
モータは着目する技術ポイントによって、同じモータが違う名称で呼ばれたり、違うモータが同じ総称で扱われたりすることがあるので、少々ややこしいですね!いずれにしても、上記のカテゴリーすべてで明和製作所の製品がクリック数ランキング1位を獲得しています。強豪ひしめく[ブラシレスモーター]でも何と1位!さすがに[ギヤードモーター]では3位ですが。
ブラシモータの特長
ブラシレスモータが主流となりつつある現代においても、ブラシモータは依然として幅広い分野で使われ続けています。それは、次のような特長を備えているからです。
構造がシンプル
部品点数が少なく、一般的にブラシレスモータより低コストです。
高始動トルク
起動時に強い力を発揮できるので、負荷の大きい機械の立ち上げや、瞬発力が求められる用途に適しています。
駆動が簡単
専用のドライバ回路が不要で、電源に接続するだけで動作するため、設計や運用の負担を軽減できます。
メンテナンスがしやすい
ブラシや回転子などの部品交換が比較的容易で、保守性に優れています。
ブラシモータの駆動原理
ブラシモータは、フレミングの左手の法則に基づいて電磁力を生み出し、回転トルクを得る電動機です。 このしくみは、磁束と電流が互いに作用し合うことで導体に力が働くという、物理学の基本原理に基づいています。

モータがトルクを発生するには、界磁によって生じる磁束(Φ)と、電機子巻線に流れる電流(Iₐ)の組み合わせが欠かせません。 モータ内部には、磁界をつくる「界磁」と、電流を流して磁束との相互作用で力を受ける「電機子」(アーマチュア)が配置されています。
界磁と電機子の役割
界磁は固定子側にあり、永久磁石または電磁石(界磁巻線)によって磁束を供給します。 永久磁石型は構造がシンプルでメンテナンス性に優れ、電磁石型は電流によって磁束を調整できるため、出力特性の柔軟性に優れています。一方、電機子は回転子(ロータ)として機能し、磁束との相互作用によって力を受ける導体巻線を備えています。 この導体に電流が流れることで、磁束との間に力が生じ、モータは回転を始めます。この力の正体は「ローレンツ力」です。 ローレンツ力とは、磁場の中を動く電荷(粒子)が、磁束密度から受ける力であり、粒子の動きと磁場の方向の両方に垂直な方向に働きます。
式で表すと: F = q(v × B) (q:電荷、v:速度、B:磁束密度)

電流とは、多数の電荷が一定方向に流れる状態なので、ローレンツ力はその電流全体に働く力として現れます。モータの回転子では、磁界のN極側とS極側にある導体がそれぞれ逆向きのローレンツ力を受け、互いに反対方向の力が生じます。 このような力の組み合わせによって「偶力(トルク)」が発生し、回転運動が生まれるのです。さらに、整流子とブラシが電流の向きを適切に切り替えることで、回転中もトルクが途切れることなく安定して維持されます。 この機械的な整流機構が、ブラシモータの安定した回転を支えています。
電流を切り替えるしくみ
モータのコイルは回転によって磁界を横切りますが、180°回転すると、コイルにかかる力の向きが逆になります。これは、電流と磁束の関係が反転することで、フレミングの左手の法則に従い力の方向も逆転してしまうためです。この力の反転をうまく補い、常に同じ方向の回転トルクを維持するために機能しているのが、整流子とブラシによる「転流」のしくみです。
転流
転流とは、ブラシが整流子のセグメントをまたぐ瞬間に、コイル電流の向きを切り替えるプロセスです。モータの回転に合わせて、次のようなステップで進みます。①ブラシが切り替え位置に差しかかると、コイルが一時的に短絡状態となり、電流はゼロ付近まで減少します。②次のセグメントに接触することで、電流の向きが反転し、電磁力の方向が再び正しい回転方向に戻ります。
中性軸・電機子反作用・進角
中性軸とは、電機子コイルが磁界と平行になり、誘導電圧(逆起電圧)がゼロになる位置のことです。 この位置で転流が行われると、電流の切り替えが自然に進み、摩耗やノイズの原因となる火花が発生しにくくなります。ただし、実際の運転ではこの中性軸は固定されていません。 電機子に大きな電流が流れると、電機子自身が磁界を生み出し、固定子の磁界を歪ませてしまいます。これが「電機子反作用」です。 その結果、中性軸は負荷が増えるほど回転方向へ少しずつずれていくことになります。このズレにより、ブラシの転流タイミングが理想的な中性軸から外れます。その結果、コイルに残った逆起電圧が整流子とブラシ間で放電し、火花が発生しやすくなります。そこで、設計上の工夫として「進角」を行います。 これは、ブラシの位置をあらかじめ“ずれる先”に合わせて少し前にずらしておく方法です。
進角の調整には、次のような手法があります:
① ブラシホルダの取り付け角度を調整する(機械的進角)
→ ブラシの位置を物理的にずらすことで、転流タイミングを最適化します。
② 巻き線と整流子セグメントの接続位置を調整する(電気的進角)
→ ブラシ位置を動かさずに、巻線の始端・終端を整流子セグメント上で回転方向にずらすことで、進角と同様の効果が得られます。
両方向回転モータの場合 、 回転方向によって進角の向きが逆になるため、進角はゼロに近い中性位置に設定するのが一般的です。

ブラシ
ブラシは、整流子への電流供給という基本機能に加え、火花の抑制や整流子の保護といった重要な役割も担っています。主な材質には、天然黒鉛質・炭素黒鉛質・電気黒鉛質・樹脂結合質・金属黒鉛質などがあり、用途や求められる特性(電気伝導性、潤滑性、耐摩耗性など)に応じて選定されます。これらの材質は、グラファイトやカーボンを基材とし、金属粉や合成樹脂を配合して製造されます。ブラシについては弊社ブログ「電気モータの整流子とブラシの関係」でも詳しく解説していますのでご興味の方はぜひご覧ください。
界磁構造と接続方式
永久磁石界磁(DCマグネットモータ)
永久磁石は常に一定の磁束(Φ)を供給するため、トルク(T)は電機子電流(Iₐ)にほぼ比例し、直線的な特性を示します。このため、小型モータに広く用いられています。

電磁石界磁(整流子モータ)
電磁石式では、界磁巻線と電機子巻線の接続方法によって、以下の3つのタイプに分けられます。それぞれ異なるトルクと回転数の関係(T–N特性)を持ち、用途に応じて使い分けられています。
| 接続方式 | 特徴 | T-N特性(概略) | 主な用途 |
| 直巻 | 両巻線を直列に接続 電源電流が両方に流れます | 高始動トルク。トルクは電流の2乗に近い特性 負荷が軽くなると回転数が急上昇 | ユニバーサルモータ、クレーンなど始動時に強い力が必要な機器 |
| 分巻 | 両巻線を並列に接続界磁磁束が一定に保たれます | 負荷が変わっても回転数が安定しやすい(定速性) | 工作機械、送風機など、安定した回転が求められる場面 |
| 複巻 | 直巻と分巻の特性を組み合わせた構造 | 中間的な特性で、負荷の変化にも柔軟に対応 | エレベーターなど、負荷が大きく変動する用途 |

このように、界磁構造と巻線接続方式は、モータ設計において重要な要素です。ユニバーサルモータはその代表例であり、直巻接続構造を活かすことで、交流(AC)・直流(DC)の両方で動作可能です。また、界磁巻線と電機子巻線が直列接続されているため、電源極性が反転しても両者の電流が同時に反転し、結果として電磁力の向きが変わらず、回転方向は一定に保たれます。回転方向を変更したい場合は、界磁巻線または電機子巻線の一方のみの極性を反転させる必要があります。例えば、界磁の接続を逆にして電機子はそのままにすると、磁界と電流の相互作用が逆転し、その結果、電磁力の方向が反転して回転方向が変化します。この方法は、専用のスイッチやリレー回路を用いることで実現可能です。

巻線設計の基本要素
巻線設計において、線径、ターン数、およびスロット占積率は、電気的および熱的性能に直結する主要パラメータです。これらは互いに密接に関連しており、設計時には以下の点に留意する必要があります。
線径
太い線は電気抵抗が小さくなるため効率が良くなりますが、巻き難くなり、スロットに収めるのが難しくなることがあります。限られたスロット面積では、巻ける回数(ターン数)が減ってしまい、誘起電圧やトルク特性に影響が出ます。
並列数
太い線が巻きにくいときは、細い線を複数並列に使うことで、柔軟性を保ちつつ必要な電流容量を確保することができます。
ターン数(巻き回数)
トルク定数や誘起電圧に関わる大切な要素です。線径やスロット寸法とのバランスを見ながら、無理なく巻ける回数を調整することがポイントになります。
線径とターン数の基本関係
| 項目 | 線径を太くする | ターン数を増やす |
| 電流容量 | ↑(大電流に強い) | ↓(細線になる) |
| 抵抗 | ↓ | ↑ |
| 電機子(コイル)インダクタンス | ほぼ変化なし | ↑ |
| 誘起電圧(Ke) | ほぼ変化なし | ↑(rpmあたり電圧上昇) |
| トルク定数(Kt) | ほぼ変化なし | ↑(Aあたりトルク増) |
銅占積率
スロット内に占める銅の割合が高いほど、出力性能は向上します。ただし、製造の難しさや熱の逃げにくさといった課題もあるため、性能と実用性のバランスを考えた設計が求められます。
巻線方式の違い
巻線の接続構成によって、誘起電圧や電流容量の特性が変わります。代表的な方式は以下の2つです。
| 巻線方式 | 並列回路数 a | 特徴 | 適したモータ特性 |
| 重ね巻 | a = p(極数に比例) | 並列回路が多く、大電流に強い。誘起電圧は低め。 | 低電圧・大電流、大容量モータ |
| 波巻 | a = 2(極数に関係なく一定) | 直列導体が多く、高電圧に適する。電流容量は小さめ。 | 高電圧・小電流、高速モータ |

巻線設計のステップ
①要求仕様の整理
定格電圧・定格電流
- 必要トルク・回転数(T–N特性)
- 使用環境(連続/断続、温度、振動など)
- スロット数、極数、整流子セグメント数
② スロット寸法と巻線スペースの確認
- スロット断面の寸法を確認(CADまたは図面)
- 絶縁紙やスロットライナの厚みを差し引いた有効巻線スペースを算出
- 絶縁は巻線の電気的安全性を保ち、コアは磁束を効率よく通してトルクと効率を左右する重要部材です
③ 線径と並列数の選定
- 電流容量に応じて適切な導体断面積を決定
- スロットに収まるように、単線 or 細線多本並列を選択
④ ターン数の決定
- 必要な誘起電圧(E)からターン数を逆算
E=ke⋅N⋅Φ⋅ω
- ke :構造定数(極数・スロット数に依存)
- N :ターン数
- Φ :磁束
- ω :角速度
- 実測または解析で得た磁束値と回転数から、必要なNを算出
ブラシモータが使われている実例
| 機 器 | ブラシモータ採用理由 |
| ネジ切機 | 高始動トルク・逆転頻度が高い |
| 切断機(鉄筋・布) | 瞬発力・コスト重視 |
| ウィンチ・リフト | 断続運転・逆転制御が簡単 |
| 巻き取り機 | 一定速度・簡易制御で十分 |
| 穴あけ機(コンクリート・金属) | 高トルク・短時間使用が多い |
| 草・芝刈り機 | コスト重視の家庭用モデルで採用 |
| 灌漑・グリースポンプ | 小型・断続運転・簡易制御 |
| 油圧ポンプ | 車載・建機で採用 |
| 粉砕・撹拌機 | 短時間動作・コスト重視のモデルで採用 |
| 結束機 | 高速応答・簡易制御が求められる場面あり |
| 搬送機 | 小型・単純搬送用途で使用 |
| 電力用遮断器・断路器 | 一瞬の動作に特化した駆動部に採用 |
| 介護用機器 | 簡易昇降・移動機構にブラシモータ採用 |
| ピッチングマシン | 高速回転・瞬発力が必要な場面で使用 |
| ディスポーザ | 短時間・高トルク・コスト重視 |
最後に
明和製作所では、こうしたブラシモータの知見と、長年培ってきた設計技術を基に、お客様の要求仕様に応える製品を提供し続けています。
ブラシレスモータが「繊細な動きと高効率」を追求する一方、ブラシモータは「配線するだけで動く手軽さ」と「力強い始動トルク」を武器に、今後も産業界の基盤を力強く支え続けていきます。
モータ選定でお悩みの際は、最先端のブラシレスモータ(IPMモータ)から、今回ご紹介した堅牢で信頼性の高いブラシモータまで、幅広い選択肢を提供する明和製作所にどうぞお気軽にご相談ください。

