ネオジム磁石は何℃で減磁する?不可逆減磁とDyフリー磁石モータの耐熱評価
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さて、先月のブログでは Dy(ジスプロシウム)フリーネオジム磁石単体の耐熱評価結果 をご紹介しました。評価した磁石では、110℃以上の温度領域で、常温まで戻しても磁力が元に戻らない「不可逆減磁」の兆候が確認されました。
そこで気になるのが、「磁石単体で減磁するのであれば、実際のモータでも同じように減磁するのか?」という点です。
今回は、ネオジム磁石の温度と減磁の関係を整理しながら、Dyフリー磁石を組み込んだモータを140℃まで加熱し、実機で確認した結果をご紹介します。
ネオジム磁石は何℃で減磁する?
ネオジム磁石(NdFeB磁石)について、「何℃まで使えるのか」「何℃になると減磁するのか」と聞かれることがあります。ただ、減磁が始まる温度を一つの数字だけで表すことはできません。ネオジム磁石には、標準グレードから高耐熱グレードまでいくつかの種類があり、メーカーや材質、磁石の形状・寸法などによっても使用可能温度は異なります。

表1に示すように、ネオジム磁石の使用温度の目安は、ノーマルグレードで80℃未満、Mで100℃未満、Hで120℃未満、SHで150℃未満、UHで180℃未満、EHで200℃未満と、グレードによって異なります。SHやUHなどは、一般に固有保磁力(HcJ)の違いを表すグレード記号として使われ、高温での使用可能温度を判断する目安になります。ただし、Dy(ジスプロシウム)の含有・非含有を直接示すものではありません。モータに使用する場合は、表に示される温度だけでなく、その温度での磁石特性や磁気回路、運転条件などを含めて判断します。
耐熱温度とキュリー温度は違う
ネオジム磁石の温度特性を調べると、「キュリー温度」という言葉も出てきます。焼結ネオジム磁石のキュリー温度は材質によって異なりますが、代表例では約310~340℃程度です。ただし、「キュリー温度が300℃を超えているから、その近くまで使用できる」という意味ではありません。キュリー温度とは、磁性体が強磁性を失う温度です。モータの使用可能温度とは意味が異なります。ネオジム磁石は温度が上がるにつれて磁気特性が低下するため、キュリー温度よりかなり低い温度でも、条件によっては不可逆減磁が起こる場合があります。

※図1は温度による磁気特性の変化を分かりやすく示した概念図です。実際のBr、HcJの温度特性は磁石の材質・グレードによって異なります。
可逆減磁と不可逆減磁
ネオジム磁石は、温度が上がると磁力が低下します。この磁力低下には「可逆減磁」と「不可逆減磁」があります。
可逆減磁
温度上昇によって磁力が一時的に低下する現象です。温度を元に戻すと、磁力もほぼ元の状態へ戻ります。
不可逆減磁
高温や強い反磁界などによって磁力が低下し、常温まで戻しても元の磁力まで回復しない現象です。
ネオジム磁石が減磁するとモータ特性はどう変わる?
永久磁石モータでは、磁石の磁束が誘起電圧や発生トルクに大きく関係しています。そのため、ネオジム磁石に不可逆減磁が生じて磁束が低下すると、モータ特性にも変化が現れます。
主な変化をまとめると、以下の通りです。
| 項目 | 減磁した場合の主な変化 |
|---|---|
| 誘起電圧 | 低下する |
| トルク定数 | 低下する |
| 必要電流(同トルク時) | 増加する傾向がある |
| 銅損・温度上昇 | 電流増加により大きくなる場合がある |
| 効率 | 低下する可能性がある |
| トルクリップル・振動 | 部分的または不均一な減磁では増加する場合がある |
磁石の磁束が低下するとモータのトルク定数も小さくなるため、減磁前と同じトルクを出すには、より大きな電流が必要になる傾向があります。その結果、巻線の銅損が増加し、発熱(温度上昇)や効率低下につながる可能性があります。
また、すべての磁石が均一に減磁した場合は誘起電圧やトルク定数の低下が主な変化となりますが、一部の磁石のみが減磁する局部減磁や、極ごとに減磁量が異なる場合には磁束のバランスが崩れ、トルクリップルや振動が増加することがあります。
ただし、モータ特性への影響度合いは減磁の程度やモータ構造、運転条件、制御方法によって異なります。特にIPMモータでは、永久磁石によるマグネットトルクだけでなくリラクタンストルクも併用しているため、磁石の磁束低下率とモータ全体のトルク低下率がそのまま一致するわけではありません。
今回の評価では、不可逆減磁による特性変化が生じていないかを確認するため、加熱前後の誘起電圧とモータ特性を比較・評価しました。
Dyフリー磁石モータの耐熱評価
試験では、先月評価したものと同じ仕様のDyフリーネオジム磁石をモータに組み込み、恒温槽内で140℃まで加熱しました。加熱中はモータを運転していません。その後、常温まで戻して、加熱前と同じ条件で誘起電圧とモータ特性を測定しました。高温時の一時的な磁力低下ではなく、常温復帰後にも残る不可逆減磁があるかどうかを確認するためです。
なぜ誘起電圧を確認するのか
永久磁石モータでは、回転子の磁石が作る磁束によって誘起電圧が発生します。回転数や巻線条件などが同じであれば、永久磁石による鎖交磁束が低下すると誘起電圧も低下します。そのため、加熱前後で同じ回転数における誘起電圧を比較することで、鎖交磁束に大きな変化がないかを確認できます。
実機評価の結果|顕著な不可逆減磁は確認されず

測定結果を見ると、3000r/min時の誘起電圧や、トルクに対する回転数・電流特性に、加熱前後で大きな変化は見られませんでした。磁石単体では110℃以上の温度領域で減磁の兆候が確認されていましたが、同じ仕様の磁石を使用した実機評価では、顕著な不可逆減磁は確認されませんでした。ただし、磁石単体で得られた110℃という結果は、その単体評価条件での参考値です。「モータでも110℃が減磁の境界になる」という意味ではありません。磁石単体と実機では磁気回路が異なり、磁石の動作点や反磁界の影響も変わるため、両者の温度を単純に比較することはできません。なお、この評価は誘起電圧とモータ特性による確認であり、磁石内部のごく局所的な部分減磁まで評価したものではありません。では、なぜ磁石単体と実機で結果に違いが出たのでしょうか。
磁石単体とモータ実機で結果が違う理由
大きな違いの一つが、磁石から見た磁気回路です。
磁石単体の場合
磁石単体で評価する場合は、モータ鉄心のような低磁気抵抗の磁路がないため、磁束の多くが空気中を通ります。空気は鉄に比べて透磁率が低く、磁石の形状や寸法によっては磁石内部に大きな反磁界が生じます。高温になってHcJが低下している状態では、その影響によって磁石の動作点が減磁しやすい領域へ移動する場合があります。
モータ実機では
モータ内部では、ロータ鉄心やステータ鉄心などによって磁束の通り道が形成されます。ロータとステータの間にはエアギャップがありますが、磁石単体とは磁気回路が異なるため、磁石の動作点も変わります。今回のモータで顕著な不可逆減磁が確認されなかったことには、こうした磁気回路と動作点の違いが一因として関係していると考えられます。

※上図は磁路を分かりやすく示した模式図です。
PMモータの磁気回路については、こちらの記事でも紹介しています。
なお、この評価は使用したモータ構造、磁石仕様、試験条件で得られた結果です。すべてのDyフリー磁石やモータで同じ結果になるわけではありません。
モータの減磁耐性を左右する主な設計要素
減磁耐性は、磁石の材質だけで決まるものではありません。エアギャップや鉄心形状、磁石の寸法・配置、運転時の巻線電流なども関係します。
1.エアギャップ
ロータとステータ間のエアギャップは、磁気回路や磁石の動作点に影響します。ただし、狭ければよい、広ければよいという単純な話ではありません。トルク性能や磁束密度、製造公差などとのバランスを見ながら決めていきます。
2.ロータ・ステータ鉄心の形状
鉄心は、モータ内部で磁束の通り道になります。形状が変われば磁束密度や磁気抵抗も変化し、それに伴って磁石の動作点も変わります。モータコアの役割については、こちらの記事でも紹介しています。
3.磁石の寸法と配置
磁石の厚み、幅、配置、着磁方向などによって、磁石内部の磁束密度分布や動作点は変化します。同じ磁石材料を使っていても、ロータ構造が違えば減磁に対する余裕も同じではありません。
4.モータ電流
モータを運転すると、巻線電流によって磁界が発生します。運転条件によっては、巻線電流による電機子反作用に、永久磁石を減磁する方向の磁界成分が含まれる場合があります。特に高温で大電流を流す条件や、強い弱め界磁を行う場合、短絡などの異常状態では、こうした減磁方向の磁界も考慮する必要があります。弊社では、このような磁束分布や磁気回路を解析しながらモータ設計を行っています。
反磁界と固有保磁力(HcJ)
ここまで出てきた「反磁界」と「固有保磁力」について、簡単に整理します。
反磁界とは
磁石内部に生じる、磁化方向とは逆向きの磁界です。その大きさは、磁石の形状や寸法、磁気回路などによって変わります。
固有保磁力(HcJ)とは
磁石が逆向きの磁界を受けたときに、どれだけ磁化状態を維持できるかを示す指標です。永久磁石の特性表には保磁力HcBと固有保磁力HcJがありますが、不可逆減磁に対する耐性を見る上では、HcJが特に重要になります。ネオジム磁石は温度が上がると、一般にHcJが低下します。そのため、高温になるほど減磁方向の磁界に対する余裕が小さくなります。
なぜDyフリーネオジム磁石を評価するのか
Dy(ジスプロシウム)は、ネオジム磁石の高温時のHcJを高めるために使われてきた重希土類元素の一つです。一方で、重希土類元素は産出地域が偏っており、国際情勢や輸出規制による調達リスクがあります。弊社では、こうした調達環境の変化にも対応できるよう、Dyを使用しないネオジム磁石の評価を進めています。今回の実機試験も、その取り組みの一つです。レアアース調達リスクやDyフリー磁石への取り組みについては、こちらの記事でも紹介しています。
まとめ
今回の実機評価では、加熱前後の誘起電圧やモータ特性に大きな変化はなく、顕著な不可逆減磁は確認されませんでした。磁石単体との違いが出た理由の一つとして、ロータ鉄心やステータ鉄心などによって形成される磁気回路と、磁石の動作点の違いが考えられます。モータでは、磁石のグレードや温度だけでなく、エアギャップ、鉄心形状、磁石の寸法・配置、巻線電流による電機子反作用なども減磁耐性に関係します。弊社では今後も、モータの性能と信頼性を確認しながら、Dyに依存しない磁石の適用について検証を進めていきます。
IPMモータについては、製品ページでもご紹介しています。

