株式会社 明和製作所

BLOG技術者ブログ

ギア製造における焼入れ後歯切り加工‟ハードホビング”について

2025.06.17

今回の執筆担当、1級機械(ホブ盤)技能士のホワイトです。
5月の爽やかな気候も終わり、いよいよ梅雨真只中となってきましたね。

早いもので前回22.3月「歯車の製造方法」について書いてから3年経過しました。おかげさまでこのブログ記事はグーグル検索の上位に表示され、直近も年間2000件程度のページビューをいただいています。

その間にも他の担当技術者の執筆により下記の減速機・ギアモータ関連のブログを発行しました。
22.8月「IPMモータ・ギアモータ直近の開発動向」
23.6月「IPM用遊星減速機と直交減速機が出来ました~!!」
23.10月「モータと平行軸減速機の組み合わせ」
24.4月「ギヤードモータ・カスタム対応について」

また本年年頭からは、設計開発・技術営業的観点からYMTech氏による

25.2月「歯車・減速機・ギヤードモータCG動画 制作秘話」

25.3月「各種歯車・減速機のCGと‟歯車かみ合い状態の可視化”で出来る事」

のブログをお送りしています。

明和製作所のモータ製造は、下記の図(会社案内からの引用)にありますように、[ 設計・開発 ― 機械加工 ― 巻線 ― 組立]と、設計も生産も機電一体の内製体制で一気通貫に行われている事が大きな特徴です。

機械加工には、特殊鋼部門(旋盤・歯切・熱処理・研削によるモータ軸・ギア製造)とアルミ部門(ダイカスト鋳造とマシニングによるフレーム等製造)があります。

2025年1月に公開したYouTube動画[同心遊星ギヤードIPMモータ紹介]にて

「弊社の技術として太陽歯車と遊星歯車は、焼入れした後に歯切り加工を施しております。通常は歯切り加工した後に焼入れしますが、焼入れによる歪みが発生します。歪みを取るための研削加工をすることなく、高精度を確保しております。特に、モータ軸に歯切り加工しておりますので、通常は研削加工ができません。弊社の加工技術により、高精度歯車となっております。太陽歯車はモータ軸に直接歯切りされており、コンパクトな構造になっております。」

という技術紹介ナレーションをさせていただいておりますが、今回はその「焼入れ後歯切り」について製造技術の観点からご説明したいと思います。

「焼入れ後歯切り」は加工の視点から堅い表現をすると「高硬度歯車材の超硬ホブ切りによる加工」で、弊社だけではなく高精度が要求される歯車・減速機において採用されていますが、その呼称や内容は各社によって違い、バリエーションがあります。

三菱電機では、焼入れ後歯切り加工をRGC(Round-bar Gear Cutting)加工という名称で施し、高硬度で高精度の歯車をギヤードモータGM-Sシリーズの減速部に組み込んでいます。

歯車加工機械(ホブ盤)で業界トップのカシフジ(弊社でも使用しております。)では、ハードホビングという用語を次の2種に分類して説明しています。①焼入れされた歯面を仕上げホブ切りする方法(通称:サラエ切り加工)、②焼入れされたブランクを直接にホブ切りする方法(通称:ブツ切り加工)

一般的に①は通常通り切削油を流しながら切るウェット工法、②は切削油を使わないドライ加工で三菱電機はこの方式です。

モータ軸先に直接加工されたいわゆるピニオンギヤは、研削砥石の干渉により高精度研磨加工が困難でしたが、超鋼ホブを使用したハードホビング加工により、上記2種の歯研並みの高精度での加工が可能になりました。

②は切削油を使わないため環境に優しく、加工が一度で済むため省エネで生産性が高まるという説もありますが、反面冷却にエアを使ったり、加工の負荷が高まるマイナス面もあり一概には言えません。

弊社の設備はドライ・ウェット共に対応でき、状況に応じて選択しています。

ハードホビングの歴史について

1960年代に歯車精度向上、生産性向上を目的に歯車の加工工具に超硬ホブを用いるという変化がありました。その背景理由として下記の2つがあります。

1つは、重厚長大、高度成長時代の大型歯車は熱処理後の歯車精度を向上させるのに歯車研削盤が必要でした。しかし、研削盤導入するには設備は高額のうえ加工時間も長く、高額な加工費となります。そこで歯車加工機(以降:ホブ盤)で、使用工具のホブ材質に超硬チップを用いて歯面仕上げ加工しての低コスト加工方法が研究開発されました。(注1)

使用ホブは、図1のホブ形状です。ホブの本体に超硬チップがロー付けされて、切れ刃面に30°のすくい面が付いています。通常のホブはすくい面無しで、ホブ軸が回転するとホブの刃先から切削が開始し、刃先に強い負荷がかかります。30°のすくい面がつけてあるのは、切削開始位置がホブの刃元のほうから先に切削開始し、刃先に負荷がかからないようにしてホブ刃先のチッピング、欠け防止を図られています。ホブの呼称がスカイビングホブと呼んでいました。現在の新しい加工法のスカイビングとは違います。

2つ目は、ホブ盤で使用する工具のホブ材質がほとんどがSKH材(高速度ハイス鋼)で、生材(熱処理前の材質)を切削するのに切削速度が40~50m/min程度でした。生産性を高めるためこれを切削速度250m/minで加工しようとする研究が行われています。一般に当時“超硬ぶつ切り加工”と言われました。切削速度250m/minにするには、ホブ直径φ100mmでは約800min-1 でホブ軸を回転させなければなりません。

当時の生産性の高いホブ盤でもホブ軸回転数は400min-1が最高であり到底対応ができませんでした。この加工が可能になるよう歯車加工機械メーカー「カシフジ」では超硬ぶつ切りホブ対応の設備が製作されました(図3)です。主軸の回転を直接油圧駆動で行い当時は画期的な加工方法と言われていました。 この設備を導入した会社は、電機メーカーでM社、H社、車メーカーでN社,H社だと思われます。

この2つの超硬ホブ切り加工については、久留米工業高等専門学校の相浦教授、米倉教授が、工具メーカーと共同で研究開発された論文が多数あります。(注2) なお、ホブは超硬チップを本体にロー付けされたものです。理由はソリッドで超硬材質にするとホブの価格が高額になるからです。

焼入れ後歯切り・ハードホビングの適用について

最近の傾向として、モータは高効率・小型化・高速回転の方向にあり、ギアもより小型・高精度・高耐久性のものが求められるようになってきています。またいわゆるギア音に対して厳しい静音性が求められる場合もあります。

当社においても、そのような用途で顧客要求がある場合に適用しています。

今回紹介させていただいた当社の減速機に導入しているモータ軸歯車諸元歯形の大きさは、0.8及び1.0の小モジュールです。硬度HRC50~55に熱処理した丸棒の歯車材を歯数10枚で小径超硬ホブ(φ32)を使用してウェット加工する方法で試作しています。

焼入れ後歯切りの利点は、第一に焼入れ歪みがない高精度の歯車ができることですが、そのほかに歯車加工が最終工程になるので、ギア異常騒音の主要な原因のひとつである“歯車打痕”が製造途中で付きにくい事があります。

通常の製造方法では、焼入れ前の生材の状態での工程間の移動で歯車打痕が付く事がありますが、それをほぼ根絶できます。

良いことばかりのようですが、この加工方法を採用実施するにはいくつかの条件とノウハウが必要です。

1.設備:ハードホビングに対応した歯車加工機

・ホブ軸回転が1500min-1 程度まで上げられること

・剛性のある設備で、断続切削時の衝撃・振動を生じない構造であること

・ホブ軸が高速回転になるとテーブル回転も高速回転に耐えうること

 テーブル回転数は次式で計算されます

  ・ホブ軸は径を大きく、短くし強度維持のため軸にキー溝はつけないこと

 ・ホブ冷却・切粉排除のエヤー及び多量の切削油が投入できること

2.工具:超硬ホブ

 ・可能な限りホブ内径を大きくして靭性の高い材質を用いること

 ・端面キー付ホブ仕様とする 図-4

 ・取扱いに注意が必要

超硬ホブは振動に弱く欠けやすい欠点があります。ホブには切れ刃面の溝が12ありますが、ホブが1回転する間に12回の断続切削が起こります。だから加工設備・工具には上記のような条件が求められるのです。また、モータ軸を取り付ける加工治具も、クランプ位置の選定、上部センター圧の調整など作業条件でホブの欠損が起因することがあります。

3.材料:熱処理された高硬度材料

・熱処理後の有効硬度深さを維持できること

・ロット間の硬度のばらつきがないこと

材料の硬度に異常があれば、製品品質はもちろん、ホブの寿命にも影響が出ます。

4.品質管理

上記に述べた設備・工具、材料、加工法、そして人材の4M(注3)が揃っている事が必須であるのは言うまでもありません。

幸い当社には高周波焼入れ設備・硬度測定器も装備し、自社内で熱処理後の管理もできるので4M管理は行き届いています。

最後に

最後に高精度歯車を適用できる弊社ギヤードIPMモータをご紹介します。

平行軸減速機付モータ(IPGシリーズ)IPG-112  IPG-112(低速仕様)

遊星減速機付モータ(IPPシリーズ)IPP-112

直交減速機付モータ(IPOシリーズ)IPO-112

あくまで標準例ですので、用途ご要望に応じてカスタム対応致します。

脚注

 (注1~2): ㈱カシフジ75周年記念誌より抜粋

 (注3):4Mとは設備(Machine)、材料(Material)、作業方法(Method)、人(Man)のアルファベットの頭文字 製造現場で製品の品質管理を正確に行うために欠かせない要素で、問題の発見や、その解決、改善などに役立っています。

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